古書探訪〜ある愛読家の記録〜

本の魅力に取り憑かれた男の追憶

散文 心優しい祖母

心優しい祖母
 
 世界大戦
 艱難辛苦
 暴力夫
 
 辛いことが多い人生を
 耐え生きた祖母
 
 人生とは何か
 
 そんなことを考えたのだろうか
 
 おそらく考えはしなかっただろう
 
 考えたら
 きっと苦しみに打ちひしがれていたに違いない
 
 そんなおばあちゃんは
 僕の大切な人がだった
 
 苦しみに耐え
 悲しみを抱き生きた人が持つ
 澄んだ目
 
 全てをありのままに
 受け入れ
 苦みを味わい尽くした
 悲しみが
 心に雨を日々降らせ
 決しておもてに出さないのに
 目は水晶のように洗われていた
 
 決して自慢できる孫でない自分も
 幸せを願い
 表に出さず一緒に過ごしてくれた日々
 
 子供時代を振り返ると
 小遣いをねだる
 わがままな孫でしかなかった
 情け無い気持ちにしかなれない
 
 でもおばあちゃんが大好きだった
 
 おばあちゃんが亡くなった日
 
 横になり
 現実を受け入れるか
 受け入れないか
 迷いつつ
 うつつとしていた
 
 そんな僕の横に
 おばあちゃんが寄り添っているのを感じた
 
 飛びっきりの微笑みと
 飛びっきりの澄んだ目で
 
 赤ちゃんの横に添い寝するようにして
 僕と一緒にいつまでもいると
 無言で伝えてくれた
 
 今の僕は
 相変わらず
 自慢のできない
 情け無い孫
 
 でも
 
 おばあちゃんを尊敬している
 この気持ちに嘘はない
 
 生きることは苦しみを伴うけれど
 
 おばあちゃんの孫になれた僕は
 幸せなのかもしれない
 
 生前
 僕が子供のころ
 おばあちゃんに何が幸せって聞いた
 
 するとおばあちゃんは
 寝ることが唯一の幸せだと答えた
 
 そんなおばあちゃんと一緒にいたくて
 苦くて嫌いだった
 コーヒーを飲むようになった
 
 おばあちゃんはブラックに砂糖だったけれど
 僕はブラック
 
 おばあちゃん
 いつもありがとう